3 農業経営規模の地域差


 ここでは、土地利用のあり方に大きくかかわる経営規模について取り上げる。イギリスの農業は、EU諸国の中でも、その経営規模が大きい。第5図には、所有規模別の農家数・農地面積の内訳を示した。これによって、イングランド・ウェールズ・スコットランドでは、どのような特色があるのかをみたい。

 まず、10ha未満の小規模農家の割合は、それぞれ22%〜28%を占めるが、それらの農家の所有面積の割合はイングランド・ウェールズではほぼ2%、スコットランドでは1%にも満たない。50ha未満までの農家数を合計すれば、イングランドとウェールズでは3分の2の農家が含まれるが、面積の割合はそれぞれ17%、25%で、ウェールズのほうがやや大きい。スコットランドでは2分の1を占める50ha未満の農家の所有面積は、農地全体のわずか5%にすぎない。

 100ha以上の大規模農家に目を向けると、イングランド・ウェールズ・スコットランドの農家数の割合はそれぞれ18%、12%、28%で、それらの農家の所有面積の割合は64%、49%、86%となっており、三者でかなり異なる。なかでもスコットランドでは、700ha以上の規模をもつ4%弱の農家が過半数の農地を占めている。前述のように、スコットランドの利用形態は放牧地が卓越しており、このような広大な土地で粗放的な牧畜が営まれている(写真1)。いずれにせよ、少数の大規模農家が農地の過半を集積していることが特徴としてあげられる。

第5図 所有規模別にみた農家数・農地面積の内訳(1996年)

 次に、経営規模の地域差をさらに詳細に検討する。第6図は、以下の分析に使用する統計区を示したものである。イギリスのカウンティは、1972年の条例によって全面的に組み替えられている。さらに1996年には、ウェールズとスコットランドで、新たにエリアが置かれ区域も再編成されている。イングランドでは、新しいカウンティはほぼ同じで、区域の変化はないため、新たに編成された上位の区域であるリージョンを図示した。


第6図 統計区の一覧(名称は省略)

 それでは、第7図によって規模の格差がどのように展開したかをみたい。これによれば、農家1戸当たり100ha以上の規模をもつのは、イングランドのノーサンバーランドとスコットランドである。とくにスコットランドでは、中小規模の農家が淘汰されたため、200ha以上の規模となっているところが多い。なかでもハイランドの規模が最大で、1996年では約340haとなっている。

 大きな変化は1966年から1981年の間にみられる。ただし、これには1981年と1996年のデータには零細農家(6ha未満、専業従事者がいない、農作業日数100日未満など)が除外されていることの影響も含まれる。1966年には、イングランドとウェールズのほとんどが50ha未満の規模であった。1981年になると、イングランド北部、中東部、東部、南東部の多くが70ha以上100ha未満の規模となった。ノーフォークを例に取ると、この間に、37ha、74ha、88haと拡大した。それに対して、イングランド中西部、南東部、ウェールズではそれほど拡大しておらず、ポーイス以外は70ha未満の規模となっている(写真6)。デーボンを例に取ると、この間に、32ha、46ha、45haと推移し、前者の間はやや拡大したが、後者の間は農家数が若干増加していることもあって変化はみられない。


第7図 農家1戸当たりの所有規模の変化(1966年,1981年,1996年)

 以上のように、規模拡大の進展は、スコットランドとイングランド北部、東部で顕著であった。スコットランドとイングランド北部の場合、粗放的な牧畜が中心で農場の統合が容易である。また、イングランド東部では、起伏のある中西部・南西部に比べると、圃場を統合することは簡単で費用もかからない。そのため、東部の低地では、大型機械を導入して大規模化・集約化がより進展した。

 こうした変化の背景には、共通農業政策のもとで、余剰農産物の公的買い上げによって価格が支持されたため、大規模経営の収益性の高まったことがある。それに対して、生産性の低い小規模農家には地価の上昇によって離農を促すことになった。こうして、余剰農産物の問題とともに、農業条件に恵まれた地域における生産性の高い大規模農家と条件不利地域における小規模農家との所得格差の増大も問題とされるようになった。そのため、1992年に共通農業政策が見直され、農産物の支持価格の引き下げおよび生産量の割り当ての削減にともなって生じる損失を、小規模農家と作付け制限に同意した農家に直接支払いによって補償するようになった。しかし、大規模経営者は土地生産性をより高めているので、過剰生産の削減にはそれほど効果がみられない。


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