5 おわりに


 有畜混合農業が行われていたイングランド東部は、いまや大規模な穀物農業が中心となり、集約化によって多目的利用の可能性が低下した。一方、起伏の大きな丘陵地では、ヒツジの放牧が中心で、一部では過放牧による損失がみられるものの、牧草地は多様な自然を維持している。

 イギリスでは、環境保護やアメニティの観点からカントリーサイドの景観保全に関する議論が行われている。カントリーサイドは国民の資産であるとされるが、それに対してどのようなあり方が考えられているのだろうか。1996年の白書『ルーラル・イングランド』から、その一部をみたい(Cm 3444, p.64.)。

・次の世代のために、カントリーサイドの価値を維持し高めるため、うまく管理して修復不能な損失を避けながら、その自然遺産を保全する。
・野生生物の衰退の流れを戻し、カントリーサイドの動植物の豊かさを持続し、希少種を保護する。
・環境の改善をとおして、過去における環境の損失を修復し、将来における避けがたい損失を埋め合わせることを保証する。
・農村景観の多様性を保持する。
・農村部の町と村のもつ特質や特色を保護する。
・レクリエーションのため、カントリーサイドを楽しめるよう人々に多くの機会を提供する。
・環境保護と経済開発の相互依存性を認めて活用する。
・カントリーサイドへのアクセスにおいて、競合する需要を調和するため、ナショナルとローカルな水準で、手順を確立する。

 このように、自然環境、農村景観の保全や改善に能動的に取り組む姿勢がみられること、そのなかで保護と開発の相互依存性、ナショナルとローカルといった点を視野に入れていることなどに特色がみられる。いずれにせよ、政治的、経済的、社会的、文化的なコンテクストと切り離して、カントリーサイドを論じることはできない。今後さらに考察を進めていきたい。

【参考文献】
 Cm 3444(1996)Rural England 1996,London: The Stationery Office,95p.
 Ilbery, B.(1992)Agricultural change in Great Britain,Oxford: Oxford University Press,48p.
 Gardner, B(1996)European agriculture : policies, production and trade,London: Routledge,233 p.
 Green, B.(1996)Countryside Conservation: Landscape ecology, planning and management, third edition,London ; E & FN Spon, 359 p
 Grigg, D.(1989)English agriculture: an historical perspective,Oxford: Basil Blackwell,256p.
 Ministry of Agriculture, Fisheries and Food(1997)Agriculture in the United Kingdom 1996,London: The Stationery Office,106p.

【データの出典】
 第1〜4図
Agricultural Statistics United Kingdom, 1955/56, 1965/66, 1975, 1980/81, 1985, 1989.
The Digest of Agricultural Census Statistics United Kingdom, 1996.
 第5図   
The Digest of Agricultural Census Statistics United Kingdom, 1996.
 第7〜14図
Agricultural Statistics England and Wales, 1967/68.
Agricultural Statistics Scotland, 1966.
Agricultural Statistics United Kingdom, 1980/81.
Welsh Agricultural Statistics, 1982.
Economic Report on Scottish Agriculture, 1981.
The Digest of Agricultural Census Statistics United Kingdom, 1996.


写真1 スコットランド、ハイランド(1997.8.)
谷間に放牧地が広がり、奥に植林地がみえる
写真2 カンブリア(1997.9.)
谷底に囲い込まれた牧草地、高所にムーア
写真3 ケンブリッジシャー(1997.4)
広大なアブラナ畑、背後には小麦畑がみえる
写真4 ノーフォーク(1997.9)
屋外で豚を飼養している農場
写真5 スタッフォードシャー(1998.7)
石垣に囲まれた牧草地で乳牛が草を食む
写真6 サウス・ウェールズ(1997.10)
生垣に囲まれた小さな圃場が広がる


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