ダービーシャーの西半分は、ピーク・ディストリクトと呼ばれる石灰岩の山地からなります。透水性の高いこのような土地では、泉は生命線で、初期の集落は泉のある場所に立地しました。こうした村々に、水の恵みに感謝するために、井戸や泉を装飾する儀礼である井戸装飾祭 Well Dressing が伝えられています。
制作の手順は、まず木枠を組み立てて、そこに可能ならば地元の粘土に水と塩を混ぜて敷き詰めます。その上に同サイズの紙に書いたデザインを写します。湿った粘土の上に、砕いた石・豆・木ノ実・種子・木の葉・苔・樹皮・花びらなど「自然のもの」を敷き詰めて絵柄を作っていき、そして木枠を組み立てて完成です。
これは、ローマ以前のケルト起源の習慣ともいわれています。
自然崇拝の強いケルトは、水の魂への敬意を払って、春に葉と花で飾った廟を建てました。この習慣はローマ帝国の支配下でも黙認されましたが、キリスト教の到来とともに禁じられました。井戸や泉の祭は廃れましたが、1348年の黒死病、ペストの流行から逃れたことに感謝するティッシントンの人々によって再開されたといわれます。
井戸装飾にかかわる人は仲間との交わりや祝祭の雰囲気を楽しみ、純粋な民俗芸術である古来の習慣を保存することに熱心です。50年前には、井戸を装飾したのはおよそ14ヶ所にしかすぎなかったのに、近年は三倍に増え、さらに1998年のデータだと71ヶ所にも及びます。
1998年の案内パンフレット
・PilsleyとGreat Longstone, Litlle Longstoneの井戸装飾