以下の絵図・鳥瞰図はすべて個人的に管理しているもので,縮小率・圧縮率は同一です。
大きさの違いが実感できると思います。画像の無断転載は禁じます。
「上州草津温泉大図」 文化7年(1810)
・版元/あふみ屋・としまや
管見の限りでは,刊年が記載されている絵図で最も時期が古く,タテ74cm・ヨコ54cmと大型なものである。中央の奥に薬師堂が配置され,中央の源泉地の手前には,左から小天狗・大天狗大瀧,12本薬師之瀧,3本不動瀧という打たせ湯が描かれている。
「上州草津温泉之図」 安政3年(1856)
・版元/一田屋
温泉街や共同浴場の位置関係が読み取れ,共同浴場には効能も付されている。右奥に白根山,左奥に浅間山,中央に源泉地を配置する横長のこの構図は,長く定番となって用いられた。
「上州草津温泉之全図」 明治12年(1879)
・市川与平
これに類似する絵図は近世に多く出版されている。学校や交番所(図中には校番所)といった新しい施設以外は,描写内容にほとんど変化がみられない。
「上州草津温泉図并八景」 明治12年(1879)
・版元/大津屋
温泉街は簡略化されている。八景として「木の葉石 鬼の茶釜」「白根山」「郷社白根神」「殺生川原」「折目原」「神供山」「常布滝」「西ノ河原」が取り上げられている。
「上州草津温泉之図」 明治前期
・旅店/山本十一郎・写/豊原周春・三丸鉄製(東京)
定番の構図の視点は北東から南西に向いているが,この図は唯一の例外で,南東から北西に俯瞰する。湯畑を横から眺めており,薬師堂を左手,白根神社を右手に置く。タテ19cm・ヨコ26cmと小さい。
「草津鉱泉場之図」 明治18年(1885)
・編輯出版/松田敦朝(東京)・売捌/栄覚堂(草津)・銅版製図/玄々堂(東京)
図の上部に「草津温泉略記」や成分表,適応病名一覧の情報を掲げる。銅版印刷で,建物の描写が精緻になっており,道路の配置から温泉街の広がりが見て取れる。
「草津鉱泉場之図」 明治21年(1888)
・編輯発行/阿部善吉(東京)・印刷/岡野茂三郎(東京)・彫刻/向咲堂葑雲
「草津鉱泉場之図」 明治24年(1891)
・編輯発行印刷/坂上武平(草津)・売捌/阿部善吉・彫刻/向咲堂葑雲
2枚は刊年は異なるが同図。
「上州草津温泉図」 明治25年(1892)
・著作者など記載無し
上部に共同浴場の一覧と温泉番付を掲げる。扇形のなかの温泉街の描写は近世以来の構図である。八つの円には八景が示されている。
「上州草津温泉場真図」 明治30年(1897)
・印刷発行/阿部善吉(草津)
明治期以降の図ではタテ型のものは非常に珍しい。源泉地手前の打たせ湯がなくなり,「大滝」という浴場名が示されている。電信郵便局には電線が繫がっている。
「上州草津温泉場略図」 明治38年(1905)
・編輯発行/山田治衛門(東京)・印刷/山田市太郎(東京)・編輯/一田屋常吉(草津)
中央の源泉地に「湯畑ケ」の名称が与えられているほか,屋根に個別の旅館名も示される。温泉街には馬車がみえ,背景として右に白根山,左に浅間山が噴煙を上げている。
「上州草津温泉略図」 明治41年(1908)
・著者発行/藤本軍次(草津)・印刷/田村茂太郎(東京)
周囲には各地からの路程が示されており,上部と左右に温泉番付を掲げる。
「上州草津温泉真景図」 大正3年(1914)
・著作発行/戸丸国三郎(東京)・印刷/田島勤一郎(前橋)・発行/日本温泉協会
温泉街に電線が張り巡らされており,中央の湯畑周辺が整備され共同浴場が減少している。左下の道順略図には,軽井沢から草津まで馬車の案内がされている。
「上州草津温泉真景図」 大正5年(1916)
・著作・発行/中澤麻吉(草津)・印刷/野村銀次郎(東京)
大正3年の図とほぼ同じ構図・内容であるが,出版者などは異なる。
「上州草津温泉真景図」 大正9年(1920)
・画作発行/萩原秋水・印刷/吾妻印刷所(中之条)
周囲に「殺生河原ノ溶岩」「翁仙瀑」「初夏ノ草津郊外」「一井ノ辰巳館」「冬季中スキーノ競技光景」「光泉寺畔ノ記念塔」「白根山頂ノ弓池「草津鉄道軽井沢停車場」の写真を掲げる。自動車の描写がみえる。
「上州草津温泉真景図」 大正11年(1922)
・著作発行/戸丸国三郎(東京)・印刷/池上半兵衛(東京)・発行/日本温泉協会代理部
鳥瞰図の構図の定型化がみてとれる。別枠で描かれる景勝地は「脱武具沼」「獅子岩」「白根神社」「白根山噴火口」「翁仙滝」で,大正3年の図と同じ。
「上州草津温泉案内図」 大正15年(1926)
・画作印刷/鳥居元夫(高田)・発行/埼玉屋商店
左上に伸びる道路の奥に草津停車場がみえる。草津温泉まで草軽電気鉄道が全線開通したのは9月であり,この図は8月発行で開業を先取りしている。ただし,電車ではなく,汽車が描かれている。
「上州草津温泉真図」 昭和7年(1932)
・発行印刷/戸丸国三郎(東京)・発行/日本温泉協会代理部
図の周囲にあった情報が左下の交通図を残して一掃されている。旅館・商店などに一軒ずつ文字注記があり,案内図としても使用できる。ガイドブックや絵はがきと差異化が図られているといえよう。
「上州草津温泉鳥瞰図」 昭和13年(1938)
・画作発行印刷/松井哲太郎(松戸)・鉄筆/松井天山
この図は道路の配置が明確であり,温泉街の平面的な位置関係がわかる。湯畑と共同浴場,旅館などに加えて,草津温泉駅や別荘分譲地,夜間スキー,西ノ河原公園なども描かれており,観光地としての草津をアピールしている。
「草津温泉図絵」 昭和3年(1928)
・著作発行/草津印刷株式会社・印刷/日本名所図絵社
金子常光の作品。温泉街は小さく,横手山・白根山・四阿山・浅間山の山並みが画面いっぱいに描かれている。
文献:関戸明子(2012)「鳥瞰図にみる近代--草津温泉を事例として」歴史地理学54-1,39-53頁
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2012年2月更新